真っ青などこまでも深い、雄大な空が広がっていた

降り注ぐ日差しは、暖かく眩しいほどの照り返しが、目に眩しかった

その空を眺めながら

幾度と無く繰り返した疑問を、胸に浮かべる

"なぜ、自分はここに存在するのか"

安らぐための場所。

安らぐための時間。

それは他人と同様に分け与えられてはいるが、

思っていることも、やりたいと思っていることも、何一つ実行できないと言う現実に、

何度、打ちひしがれたことか。

愛する者とも、さして時間を共有できず

望みさえ得られない。

世界を救うためにと言う、大義名分のもと自分の感情を押し殺し、

与えられた場所と、与えられた使命を背中合わせに感じながら、

毎日、辛い思いをしながら過ごす。

(あぁ・・・また、悪い癖が・・・)

せめてこの土地に、アークが戻っている時だけは、

そんな悩みも弱みも、考えないように・・・

何よりも、そんなことを考えている自分を見せないように、と努力してきた。

(また、泣きそうな顔をしているんだろうな…)

自嘲の笑みを浮かべながら、

内心、辛くて苦しくて、

もう、どうしようもなかった。

神殿の階段にへたり込み、不安に打ち勝つため、

再び、大きな青い空を見上げた。

空を見ていれば、なんとなく、不安も悩みも、吹っ切れて行くような、

そんな、気がしたから。


 
空には数羽の小鳥が居た。

何気なくそれに目をやると、その小鳥達は自由に空を飛びまわり、

気持ちよさそうに空の高みへとのぼって行った。

そうかと思うと、突然地に降り立ち、木々の間で囀りはじめる。

自由に空へと飛び立ち、自由に地に降り立つ。

そんな鳥達の姿さえ、羨ましいと時に思う。

束縛された生活の中、何度この地を離れ、遠くに居る仲間の元へ行こうとしたことか。

せめて、もう少しの自由があればいいのに。

そんな儚い願いを浮かべながら、それでも空を見続けていた。

だが、知らず知らずのうちに、焦点がぼやける。

雲一つ無い青空がしだいにぼやけ、見えないはずの歪みが見えてくる。

泣かないように。

涙を流さないように。

必死で目をつぶる。

(何、一人で泣いてるのよ)

そんなことを思いながら、

目頭をきつく、押さえる。



背後から、階段を降りてくる足音が聞こえる。

コツコツとそれは次第に大きくなり、

やがて、止まる。

急いで涙をふき取り、目を開ける。

それとほぼ同時、優しいぬくもりに包み込まれた。

「―――どうしたの・・・?」

案の定、それはアークの声。

その声とぬくもりに、安心したのか、再びじんわりと涙が浮かぶ。

後ろから優しく抱きとめられた時は、ドキリと鼓動が高鳴ったりもしたが、

「ちょっと、考え事をね…――大丈夫よ。」

と、気丈に振舞いながら腕の中で囁く。

(見られなくて、良かった)

そんなことを内心思う。

背後からでは、その表情をうかがい知ることなのできないのだから、

泣いていても泣いていなくても、問題は無かった。

問題は無かったのだが、それでも必死に涙をこらえていた。

「そうか…俺はてっきり、一人で泣いているんじゃないかと思ったよ。」

その言葉に、心臓が跳ねる。

心を見透かされたようなその台詞に戦慄しながら、言葉を返す。

「…泣いたりなんか―――」

その言葉も、次のアークの台詞で唐突に途切れる。

「―――大丈夫。見えないから、思いっきり泣けば良い。」

抱きしめる腕に、一段と力が込められた。

「俺が、傍に居るから」

そうして、その言葉を境に、必死でこらえていた物が溢れ出し、

しばらくアークの腕の中で、涙していた。

 

 

 

 

泣いている間、ずっと傍に居て、抱きしめてくれていたアーク。

涙もどうにか収まり、考えていたことも、少しばかり楽になった気がする。

「ありがとう。もう大丈夫だから。」

そんな言葉を発しながら、彼の腕を解こうとしたのだが、

アークは腕に力を込めたままで、抱きしめることを止めようとはしなかった。

「もう、平気?」

心配そうな表情で、そんな言葉を返してくれた。

その言葉に頷いて、小さく口を開いた時、

「…たまにはのんびりと、"一緒に"、空でも見ようよ。」

そんな彼の申し出に、開いたままだった口を閉じ、小さく頷いて正面に向き直った。

相変わらず日差しは暖かく、柔らかな風が吹いていた。

少しばかり、目が腫れぼったくて、どこか後ろめたいような思いがあったが、

それでも、二人で一緒に居られることを嬉しく思う。

体の正面に回される腕、その腕をきつく抱きとめ、

二人して、階段に座って、青い空を眺めていた。

 

 

 

抱きしめられることしばし。

腕に込められていた力が、軽く緩んだ。

抱きしめることをしなくなった腕は、その場から動くことも無く、

ちょうど、肩口のあたりで止まっていた。

唐突に、アークが口を開く。

「泣きたくなったら、泣けば良いよ…―――」

次第に小さくなるその言葉に、耳を傾ける。

「不安になったら、叫べば良い。寂しくなったら、呼べば良い」

たまらず振り返ると、アークが優しく微笑んでいた。

「この空は、どこにでも繋がっているんだから…ククルの気持ち、俺に届けてよ。」

その言葉を受けて、胸の中で何かが弾けた。

アークの両腕を包み込むかのように、優しく手を添えて、つぶやく。

声に震えは無く、いつもの調子で喋ることができそうだった。

「ありがとう・・・本当に。」

今の二人に突きつけられた真実。

逃げられない運命。

それに、背くことなく、あえて立ち向かっていこうとする意志。

そんな意志が、ずっと欲しいと思っていた。

「アークは・・・私と居て、幸せ?」

小さく囁く。

痛いほどの、その言葉。

その言葉を口にするだけで、見を引き裂かれる思いになる。

それがあまりにも小声過ぎて、アークの耳に届かなかったのではないだろうか?と

言い終わってから思いなおしたのだが、

アークはきちんと、望む答えを返してくれた。

答えを聞いたときは、目を見開いた。

(やっぱり、私と同じことを考えていてくれたんだ…)

そのことが、妙に嬉しくて、

胸に熱いものが込み上げて、

それ以上、何も言葉を発することができなかった。

 

 

 

 

 

 

『アークは・・・私と居て幸せ?』

『もちろんだよ。ククルは?』

『私も幸せ。』

『良かった。』

『でも・・・不安なのよ』

『俺も、そうだよ。―――でも・・・』

『でも?』

『ククルと一緒なら、・・・ククルが俺の傍に居てくれたなら、

何があっても・・・何時までたっても。

たとえ、お互い離れ離れになっていたとしても・・・。

ククルが俺を必要としてくれているなら、絶望でも、不安でも、何でも、

乗り越えられる気がするよ。――――違う?』

心から望んでいた、欲しいと思っていた、想い。

強い、意思。

そうか、この不安感もアークと一緒なら、乗り越えているけるんだ。

そう、実感して、

『愛してる』

の一言を、何度も何度も、囁きあった。

 

 

 

その想いと、意思と、希望を得てから、

私は強くなった。

毎日やってくる不安に、打ち勝つことができた。

たまに、その不安に押しつぶされそうになって、

無意味に涙を流しそうになる時も有るけれど、

あの時の、アークの言葉と、青い空を忘れない。

二人で、同じ物を眺めていたあの時間だけは。

誰にも邪魔されなかった、あの時間と場所だけは。

何時までたっても、

私のものであって欲しいと、

強く想うようになった。

 

 

 

 

 

 

そして―――

 

 

 

 

 


天紫晃・HOME

Arc The Lad.と言う作品に出会ってから、かなりの年月がたちました。
この作品に出合って、はまったきっかけも、思い起こせばアークとククルの二人
が居たからでした。
自分なりに二人の心境や境遇を、表現できていれば良いな。と思いながら、今回
の作品を投稿させていただきます。



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